大阪市天王寺区・西区の
児童発達支援・生活介護「スバコ」

《2017年5月号》靭だより 「う・さ・ぎー!」


 梅雨入りのニュースが気になるこのごろですが、皆様元気にお過ごしでしょうか?天候が崩れやすくなる季節ですが、体調も崩してしまわないように気をつけて、元気一杯レッスンに取り組んでいきましょう♪

 

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「う・さ・ぎー!」

Nくんは人懐っこい笑顔がトレードマークの年長さんの男の子です。お友達作りも得意で、来年は小学生になるので、お友達がもっともっと増えるかなとワクワクのNくんです。そんなNくんには苦手なことがあります。それは、伝えたい言葉がうまく発音できないことです。「にんじん」が「にじっ」「きつね」が「きねっ」のように言葉がギュッと短くなってしまいます。

 Nくんは「きつね」「たぬき」のような3音以上の言葉になると省略が起こります。その中でも特に、言葉の真ん中に来る音で省略が起こりやすくなっていました。そこで、言葉を「い・ち・ご」のように1つずつの音に分けられるかという音韻分解の検査を実施しました。この検査から、言葉をイントネーションやアクセントに頼って聞き取っていることが分かりました。「い・ち・ご」のように言葉が1音ずつの組み合わせで出来ていることにまだ気づいていないようです。

 今回Nくんは「ドミノをやっつけろ!」というレッスンに取り組んでいます。音数だけ並べたドミノを1音ずつ声に出しながら倒すレッスンです。例えば、「かめ」ならドミノを2つ並べ、「か!」「めー!」と1つずつ指で弾いて倒します。2音の「かめ」や「いぬ」までは元気いっぱいに弾いてくれたNくん。しかし3音の「うさぎ」に挑戦した時、「う!」「っぎ!」と2つしか倒せず1つ余ってしまいました。んくんは「んん?」と首をかしげてしまいました。今度はゆっくり声に出しながら挑戦です。まずはトレーナーが「うー」「さー」「ぎー」とゆっくり1つずつ倒してみせました。「えっ?」とまだまだ不思議そう。でも自分でゆっくり「うーさーぎー」と発音してもらうと、「う」と「ぎ」の間に「さ」があることを発見!1つずつ「うー」「さー」「ぎー」とドミノを3つ倒せました。今では3文字の言葉をはっきりと発音しながら「い!・ち!・ごー!」「ぶ!・ど!・う!」と倒してくれます。

 1音ずつを区切って発音ができれば、言葉もだんだんはっきりしてくるね。小学校でも、元気いっぱい自己紹介していっぱいお友達をつくろうね!(喜多村)

 

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「何色のクッキー作ろうかな?」

みなさんは子供の頃、どのように砂場で遊びましたか?一生懸命作ったお山のトンネルに何度も往復して空き缶に汲んできた水を流し込む。崩れたらそのまま泥だんご作りをして誰が一番遠くまで投げられるか競い合う、そんな遊び方が私の子供時代でした。手で砂山を作ったりトンネルを開通させたりキラキラ光る泥だんごを作ったり。砂場での活動は特に手を汚さずに遊ぶ事は難しいですよね。

 現在小学校1年生のYくんは手が汚れる事が苦手だそうです。特に「ネチッ」とした感触を不快に感じるYくんは学校でも粘土などを使う図工の時間に参加の不利を抱えているようです。kids靱ではGWの特別プログラムとしてクッキー作りを行いましたがYくんは手で生地をこねる工程で「気持ち悪いよー」と言って生地に触れる事が出来ませんでした。

 感覚統合の処理過程で感覚調整に課題がある児童の中には自分の身体に触れる・揺れるなどで入力される少しの刺激に対して過敏に反応して不快と感じる事があります。Yくんも知識として過去の経験から『この生地はネチャっと手にまとわり付く物だ、気持ち悪い!嫌だ!』という認識し、触覚防衛反応(触感覚に対して過剰な反応を示すこと)を示していました。 

 そこでYくんの好きな電車と同じ色の着色料を生地に練り込んで「これは御堂筋線の色だねー!この青色を混ぜたら何線になるかな??」と声を掛けながら生地作りに参加してもらいました。初めは感触が気持ち悪そうで嫌がっていましたが徐々に色が変わっていく過程を見ている内に自分から手を伸ばし生地をこね始めました。

 脳には記憶に基づいて何か行動をするとき、好き・嫌いといった情動が働く大脳辺縁系の扁桃体と呼ばれる場所があります。一般的にトラウマと言われるような、体験や記憶によって行動が制限されるのは扁桃体が強く働いていると言われています。また、扁桃体にはその行動が『自分にとって価値のあるものなのか』ということを快か不快かという情動から判断する機能があります。

 このことから、Y君の場合は自分の好きな電車の色に着色されていく『快の反応』が過去に経験した触感に対する『不快な反応』を上回ったことで、苦手だった感覚が楽しいものに感じ、「挑戦してみよう!」と能動的に活動に参加出来たのかもしれません。

 好きこそ物の上手なりという言葉があるように苦手な物事にチャレンジする際はちょっと一工夫すると捉え方が変わるのかもしれません。さぁ、Y君!今度は何を作る?(中井)

 

靱だよりH29年5月(PDF版)