大阪市天王寺区・西区の
児童発達支援・生活介護「スバコ」

【2017年12月発行号】 すばこだより「ご褒美の使い方」他


 あっ!という間にすぎた一年を思い出しながら年の瀬を感じるこの頃・・。
今年も利用者様のキラキラと輝く瞬間にたくさん出会うことができました。今年も1年、お力添えをいただきありがとうございました。来年度もよろしくお願い致します。

subaco switch

「ご褒美の使い方」

 「ご褒美だけもらって結局約束を守らないんです。」そんな保護者様のお声を聞かせていただくことがあります。

脳機能が未熟で働きに偏りがあることによって、興味がないことに取り組めなかったり、”してはいけない”と分かっていても抑えられないことがあります。大人からの励ましや説得・子ども自身の努力だけではコントロールが難しい時には、自制する先に楽しいことや嬉しいことを設定して、成功体験が出来るように導いていく働きかけが有効になる場合があります。“行動した結果得られた快楽により活性化する”脳の働きは「報酬系」と呼ばれ、行動や学習を促進する働きを担っています。

しかし、ご褒美の使い方を間違うと効果が出ないばかりか「ご褒美がないなら、しない」なんて間違った学習をしてしまうことになりかねません。ご褒美を使う時に大切なことは一つではありませんが、「あげるから◯◯やってね」ではなく「欲しいなら◯◯しよう」と本人の意思で”こうしたい”と思う気持ちを支える働きかけが大切です。

Tくんは今「送迎車に乗る時に走って行きたい気持ちを抑えてゆっくり歩く」ことに取り組んでいます。

Tくんのご褒美はポケットモンスターのシールをもらうことです。「ポケモンシールはお友達と歩いていけたら貰えるけど、走って行ったら貰えないからね」ご褒美を用いたアプローチを行う中で、送迎車が見えて飛び出しかけたTくんでしたが、立ち止まったお友達に「手をつなごう」と声を掛けゆっくりと歩いて送迎車に乗り込むことが出来ました。

ゆっくり歩いてみることで「葉っぱがいっぱい!」と今まで気付かなかった風景を楽しむTくんの姿がありました。

自制は新たな楽しみを生み出してくれるものなのですね。(有馬)

 

 

 

subaco study

「あっ!れもんだ、みーつけた!」

 Aさんは絵を描くことやお話をすることが大好きな6歳の女の子です。机に向かうとまずは、「今日はいるかさんにしよう!」と言って、絵と一緒に上手に書いた文字をトレーナーに見せてくれます。

 絵も上手に描くことができ、文字も上手に書けるAさんに絵本を読んでもらった時のこと。「し…ず…か.に..し.て…く…..だ..さ…い…」と、文字を読むときは少し様子が違います。10文字の文を読むのに、1文字ずつ指で押さえながらゆっくりと読んでいくため、書かれている物語の内容も入ってこないようです。「絵本を読んでみようよ。」とトレーナーが誘ってみても、「うーん。読みたくないなぁ…」と言うこともしばしばありました。

 音読するときには、文字を目で捉えた後にその文字を音に変換し、それを語彙と結びつけます。そして単語や文章にして、発声するという処理過程が頭の中で行われています。

 Aさんの読み方の特徴を探るため、「文字をまとまりで読む」という検査を実施しました。これは5文字でできた単語を、できるだけ早く読んでいくという検査です。すると「す.べ..り…だ…い」「お.と..し.だ…ま」と読む姿が見られました。Aさんの場合、1文字ずつのひらがなを音に変換することは正確に行えますが、何文字かのひらがなを1つのまとまりとして読むことに課題があることが分かりました。

 そこでトレーナーが考えたおしごとは、「隠されたことばをさがせ!」です。これは、ランダムにひらがなカードを並べて、その中から隠れている単語をできるだけ多く見つけ出すというおしごとです。自分で単語を作ることで、いくつかの文字がまとまって単語が成り立っていることに気付けるようにしました。

 「なにがかくれてるんだろなー。えーっと。えーっと…。」と言って、しばらく考え込んだAさん。でも次の瞬間…!「あっ!れもんだ!…あとそらもある!」見事単語を見つけることができました。

 最近のAさんは、初めて読む絵本でもまとまりで読めるようになっています。1回読むのにかかる時間が短くなったことで、絵本を読むのも楽しくなってきたようです。さあ次はどんな絵本を読もうかな?楽しみが増えたね。Aさん!(竹村)

 

 

subaco kids

「ぼくが本当に履きたいのは・・・」

 Sくんはサッカーが大好きな9歳の男の子です。毎週サッカーチームに参加して練習を頑張っています。

 最近、チーム内では紐靴のサッカーシューズを履くお友達が増えているようです。Sくんも同じように紐靴を履いてプレイしたいけれど、上手く紐を結ぶことが出来なくて履けずにいます。そこでSくんが紐靴を履いてプレイが出来るように、一緒に蝶結びに挑戦してみました!

 Sくんが蝶結びをしようとすると、片側の紐にもう一方の紐を上手く巻きつけられず、“するり”と解けてしまいます。Sくんは紐で輪を作る時に、尺側の二指(薬指・小指)も一緒に動いていました。

 そこからSくんが手指の分離運動をどの程度できるかを探るため、トレーナーのピースサインを模倣してもらいました。すると母指対向は出来ていましたが、中指が屈曲しており、橈側三指(親指・人さし指・中指)と尺側二指を別々に動かすことがまだ難しいということが分かりました。

 そこで今回は手指の分離運動を促すために、ブレスレットを作るレッスンに取り組みました。ただ作っていくのではなく、橈側三指でビーズとテグスを操作する際に尺側二指が一緒に動かないよう、尺側二指で小さなボールを把持して行ってもらいました。

 最初は尺側の二指がついてきてしまって、時間がかかったり、思わずボールを落としてしまう様子もありました。しかし、それでも諦めないSくん。「このブレスレットが完成したらどうするの?」と聞くと、「半年遅れたけど、お母さんの誕生日プレゼントにする!」と恥ずかしそうに教えてくれました。

 完成させたい!という思いを強くもって取り組んだSくんは、繰り返すうちにボールを落とさずにビーズ通しが出来るようになりました。こうしたレッスンを重ね、指を別々に動かして蝶結びが出来るようになったSくん。よし!これでサッカーシューズを履いてプレイできるね!さあ、決めるぞ!スーパーシュート!!(北川)

 

 

subaco bond

「To Love Mom!〜大好きなママへ〜」

 皆さんは初めてお料理した時の事を覚えていますか?

 初めてのことをする時はワクワクしたり、逆に不安に感じることもありますよね。Sくんはお母さんのことが大好きな6歳の男の子です。特別プログラムに参加した際、Sくんが初めてクッキングに挑戦しました。Sくんは食べた事のない食べ物に対して抵抗があり、最初は他のお友達が食べている姿を見ているだけでした。
 そこで、2度目の参加の時は、“作ったものを食べる”というテーマではなく、“誰かの為に作る”ということをテーマにして、お母さんに協力をしてもらいました。

Sくんには、「お母さんに食べてもらおう!」ということを伝え、さぁ!“プレゼント大作戦”の始まりです。

 1枚1枚イラストを確認しながらピザを作り、お母さんが来るのを今か今かと待っていました。お母さんの声が聞こえると、すぐに駆け寄り手作りピザをプレゼントしたSくん。お母さんも「おいしい!」と大喜びでした。

お母さんからもSくんに「食べる?」と美味しいおすそ分けがあり、Sくん自身は一口だけ食べることができたのです。大好きなママとこれからどんなストーリーが生まれるのでしょうか。楽しみです。(横尾)

 

 

subaco training

「ページストッパーでその先へ!」

 皆さんはこの世界にどれだけの『本』があるか知っていますか?

Google社の調べによると、なんと1億2986万4880冊もの書籍が存在しているそうです。
『本』といっても小説や漫画・教本など様々な種類がありますが、Hさんは俳優の石原裕次郎さんの大ファンで石原裕次郎さんの自伝や写真集などが宝物だそうです。しかしそんなHさんは脳性麻痺アテトーゼ型の症状により両手を思うように動かしづらく、左手を使ってやっとの想いでめくったページを右手で留めておくことが出来ず2,3ページめくるのが精一杯でした。

これは各関節で分離運動を行う中で両手での作業や手を伸ばす・物を掴む等、目的を持った動作を行う時に意思に反して筋が伸張・収縮する『不随意運動』という脳性麻痺アテトーゼ型の主な特徴が出現してしまうためです。

ヘルパーさんに一枚一枚ページをめくってもらって貴重な支援時間を割くのも勿体無いと感じていたHさんはいつしか大好きな雑誌を本棚の奥にしまい込んでいました。

「自分の手で本を読みたい」と話すHさんに応えるため、めくったページを次々と挟み込んで片手でも読書出来るツールを作ってみようと思い完成したのがページストッパーでした。材料はダンボールと、マスキングテープだけで簡単に作れるアイテムです。

 完成したページストッパーを用いて初めて本を読めた時のHさんは「やったぁー」と拳を突き上げてガッツポーズを取っていました。また、もう行く機会は無いかもと諦めていた書店に出かける楽しみが出来たことをとても喜んでおられました。いつかページストッパーを使って図書館で読書をしている、そんなHさんの生活も素敵ですね。(中井)

 

 

すばこだより 12月号(PDF版)

 

 

これまでのおたよりはこちら