ヒト見知り。

子どもの発達の過程の中で『人見知り』という現象があります。
人見知りとはなんでしょうか?
『人に懐かない』ということでしょうか。
そのように思われがちですが、少し違うのかもしれません。
親以外の人に対して、視線を合わせ続けたり(定位)、笑いかけたり(発信)、近づいたり(接近)、抱かれたり(接触)というような愛着形成の基本となるような行動を反射的に行わないことが私たちに『人見知りだ!』という印象を与えます。
このような愛着形成の行動は基本、お母さんやお父さん、兄弟など毎日出会う人との繰り返しの行動から促されていきます。
・視線を感じたら目を合わせる。
・微笑まれたら微笑み返す。
・近づかれたら止まる。
・抱かれたらしがみつく。
というような行動は刺激(視線や表情、相手の動き、触覚・重力)に対する自動的な結果として生じます。
つまり、『反射』です。
赤ちゃんが笑うから相手側の大人が笑うのではなくて、大人が笑うから赤ちゃんが真似をするように笑うのですね。(微笑反射、reflex smilingなどと呼ばれたりします。)
ところが、6ヶ月くらい経つと定型発達の赤ちゃんであれば、知らない人に見られたら目をそらしたり、近づかれたら遠ざかったり、抱っこされたら泣いたり、簡単には人に懐かなくなります。
どうしてこういうことが起こるのでしょうか?
一つの理由は、『知らないことを知りだした』ということです。
人見知りは知恵のつき始めと言われたりします。
私たちが自分たちの能力を高めるために必要な心理機能があり、
その一つに『不安』があります。
『新しい行動に対する失敗の予測』は私たちの生活には非常に重要です。
失敗を予測できるようになれば、自分確かめる必要があります。
『自分はやったことがあるかな?』
『自分は知っているかな?』
と思うような自分に対する確認です。
そのような不安がまず『人』に対して始まります。
毎日会っている親・兄弟との経験から『人(動くもの)』と『物(動かないもの)』の区別ができるようになり、およそ『人』という概念に気がつき始めます。
そして、毎日会っている親・兄弟から、そうでない人とであい、『知り合い』と『見知らぬ人』との区別がなんとなくつきはじめます。
『この人誰だろう?』
『自分が知っている人なのだろうか?』
いや、『自分の知らない人だ』
これが一つ目の理由です。
それが場所であれば、『場所見知り』として表れます。
人見知りが起きる理由として、もう一つあります。
それは『反射の抑制』です。
赤ちゃんがおっぱいを吸ったり、ミルクが肺の中に入らないよう胃へ送り込んで飲んだり、頭が倒れないように筋肉で支えたりするような運動は全て反射で起こっています。
それでは『反射』とはなにか?
与えられた刺激に対して無条件に起きる反応(運動)と言えますが、
それでは無条件ではない、ということがどういうことか?
それが気になりますよね。
つまりは、大脳で反射を止められるか?という意味が近いと思います。
大脳は生活上の結果を経験として記憶したり、経験をもとにして考えたり、状況を踏まえて自分に命令したりする機能を担っています。
この大脳が関わることで、反射を抑えることが可能になっていきます。
目が合えば目を合わせてしまう、笑われれば笑ってしまう、抱かれたらしがみついてしまう、というような反射的な行動に対して、
『あれ?この人は知らない人だぞ?』
『危ない人かも知れないぞ』
というような不快な感情から不安の意識が働いて、
人と自動的に関係する反射を抑えることができるのです。
いわば、子どもが人に対して『知能を働かせている』という場面なのかもしれません。
『知らぬが恥』と言われたりしますが、
初めて会う人や、初めての課題を『知らない』と感じる程度は人によって幅があります。
『この人は自分の知らない人だから、怒らさないようにしよう』と思う子どももいれば、
『この人は体育の先生に似ている人だから、おもいっきりボールを投げて取ってもらおう』
というように初めてのことでも、自分の知り得ている経験の範囲内で行動する子どももいます。
皆さんはいかがでしょうか?
『知っていることと、知らないこと、どちらのほうが多いですか?』
質問しても素早く答えを述べられない子どもがいます。
大人だってそうですよね。
知っていることをすぐに述べられる力も大切です。
でも、自分は知らないのかもしれないと少し自分を疑って、
不安を感じ、言葉が出なくても、動けなくても、
それが全体の能力ではないでしょう。
知り始めたら動けなくなるし、
知りすぎても動けなくなる。
不思議なことです
subaco kidsに通う子どもたちがいます。
反射が弱ければ促したり、
反射が強ければ抑えたり、
基本的な関わり方がまずは大切です。
決まり切ったパターン的な動き方ではなくて、
感覚からの情報を調整して、新しい運動を獲得していきます。
新たな人との出会いから、新たな気持ちに出会っていく。
新たな課題から、新たな技術を手に入れていく。
不安があるなら悩めばいいと思う。
立ち止まることも大切さ。
不安が見える場所まで進んだ証拠。
分からないと、知らないは違う。
同じ人はいないから、
同じ環境もない。
毎日、全てが新しい。
今日もドキドキ。
明日もドキドキ。
こんにちは『人見知り』
昔の自分が恥ずかしい?
そう思えて、大人らしいのかな。
『夕焼け小焼け』
夕焼小焼で 日が暮れて
山のお寺の 鐘がなる
お手々つないで 皆かえろ
烏と一緒に 帰りましょう